個人的に記録したもの、特にフィルムや印画紙に残された写真は、保存に気を付けても状態の経年変化が避けられない。資料としての情報が残っていれば良しと言っていてもやがてそれも失せるかも知れない。切実なのは本人が亡くなると、その価値を理解しない相続者により、良くて切り売り普通は燃えるゴミで処分とされる現実である。 そこで、次の世代が使い勝手で管理しやすい形に整理し、少しでも引き継いで貰うべく行動を起こす必要がある。又本人と周囲が価値無しと考えていても、世の中には必要性を認める者が居るかも知れない。と言うわけで取りあえず、完全に無価値と思われるもの以外は、デジタル化して置くことが必要である。特に年寄りは、若年者が出会うことが出来なかった事物に接する機会が有った者として、それを伝える義務があると思う。 一般論はここまでとし、写真のデジタル化について簡単に説明する。写真のデジタル化で、元になる画像はフィルムと印画の2種類がある。きれいにプリントされたA5程度のポジ画像があればそれをそのままフラットベッドスキャナー(コピー機に似たような機械)でデジタルデータ化すればフィルムの持っていた内容(情報)はほぼ全て収められる。しかし大方はフィルムのまま、チェック用の小プリント程度までしか残していないだろうから、フィルムを直接スキャンするときの設定などを説明したい。 フィルムスキャンはアマチュア用としては専用スキャナーと反射画像兼用(簡単に言えばコピー機)スキャナーがある。しかし前者は既に日本では製造終了しているので後者を使うことになる。私の使っているのは別項で書いたようにエプソンのフラットベッドスキャナーである。これで写真展に出して鑑賞に堪える程度のスキャンが可能である。ピントのことについては別項を参照願いたい。癖の強いフィルムでなければ付属のフィルムホルダーで問題なくスキャンできる。 解像度は目的に応じてだが4000dpi程度にしておけばフィルム粒子をカバーできる。それよりもスキャン階調(エプソンではイメージタイプ)はモノクロでは16bit、カラーでは48bitで行うこと。これにより、特に黒くつぶれていると見えていた部分も救えられることが多い。カラーは退色補正はオンにしておく。これでスキャンを行い必要に応じてキズ修正と色調修正トリミングを行うことになる。 ここで別項フィルムスキャンの顛末に一刀齊老人より寄せられたコメントに対する下名の返しで挙げた上野氏の原画を貼るのでご覧頂きたい。「入力階調42bit、解像度4000dpi、褪色補正」で別出ニコンフィルムスキャナーによりスキャンしたままの姿である。原判はフジカラーポジ、やや褪色していたが保存状態よくカビも発生していない。35mmでこのくらいまで再生できるなら問題ないであろう。 モノクロフィルムの劣化もカラーと同じくカビと還元による調子変化(銀析出)であるが、カラーの場合色が変化するので始末に困ることがある。(モノクロの場合はごまかしが黒濃淡で行えるので比較的簡単) 次に劣化の激しいカラーの例をお見せする。 これは三品氏撮影の冬の狩勝峠展望台からの光景だが空のカビ、部分的赤化などあって退色はほとんど無いが鑑賞に堪える状態ではない。これを、短時間で応急的であるが一見見られる程度に、修正してみた。方法は、ケロイドの植皮手術と同じで他の正常部分からコピーした画像を貼り付け、周囲と違和感無きようぼかす方法である。 先ず褪色補正。設定はエプソンのソフト委せ。原版は35mmエクタクロームである。 そして植皮手術。もう少し時間をかけて(このシーンは約1時間)修正してやればもっと見栄え良く出来るが。それでもこの最後の写真だけ見れば目を背けたくなる最初の写真が前身だったとは思えないであろう。しかしこの原版が、後数年たって、もっと劣化してしまえばここまでは戻せない。この写真は旧狩勝線を楽しむ会が活用するため私がスキャンしたものである。このような例もあるので誰がどこで必要としているか現在は判らなくともとりあえずスキャンし保存しておくことを皆に薦めたい。 例えば次の写真は1962年の8月根室本線狩勝峠が豪雨による築堤崩落で不通だったので網走から入り雄別や鶴居村営軌道を見た帰途、川湯・緑間のC58補機の活躍を撮ろうと釧路から川湯へ向かう途中で撮った写真である。フィルム交換で、フィルムの終端に位置した「半端」カットのスナップと思って居たがスキャンし大きくしてみると弟子屈に進入するC57牽引の釧路行きまりもであることが判った。 まりもが石北・釧網線経由で迂回運転されていることは知ってはいたが、写真としては「来ました、撮りました」という単なる記念写真だが、C57が釧網線を走った記録としての価値があると考えている。 行きずりの1枚と考えていた写真が、後から意味を持ってくる可能性がある、だから一応保存しておくことを考えて頂きたい。
Read more »