韓国ほぼ一周鉄道の旅　その１

 ９月９日から１３日まで駆け足で横浜在住一言居士師と半鉄半呑みの旅を行ったのでそのうちの鉄の方を報告します。隣国ながらこれまで近隣の台湾中国に隠れ当会でも余り報告されていませんので皆さんが出かける誘い水にでもなれば、残暑の中敢行した甲斐もあるというものです。只生来のずぼらな性格で車両形式など調べていません、”行った、乗った、見た”だけということを予めお断りしておきます。

９／９　９時２５分成田発大韓航空７０６便でソウルへ。日航が全廃するジャンボが満席、しかも殆どが日本人客です。今回の旅行の帰国便もこれと対の７０５便でしたがこれも満席、仁川が（日本の）ハブ空港になっていることを実感します。此に関連、帰国便はともかく日本発ソウル行きの朝便は売り手市場で安い切符が手配できません。午後出発便は安いのですがその晩はソウルで宿泊となりホテル代と飲み代を考えると帳消しのうえ毎日が日曜日の私と違い同行する一言居士師は未だ現役です。そのへんの事情もあってこの出発なりました。

仁川空港で前もってネットで手配していたKORAILPASSを受け取りついで韓国内で使用する携帯電話をSK Telecomから借ります。後者は、成田で貸し出されている携帯電話は異常に高いのではないかと薄々感じていたので、今回実行してみることにしました。空港から本日の目的地モッポ（木浦）へ行くKTXの始発駅ノンサン（龍山）まで高いけれど早いリムジンバスを奮発。KTXは１４時発に続いて１５時発もありますが宿を予約していないので早い到着が良いだろうと判断したからです。バスは発車１５分前にノンサンへ到着、PASSを提示して簡単に乗車券を入手、がらがらの列車に乗り込みます。ノンサンは東海道線で云えば東京に対する品川のような駅で、ソウル駅が京釜線でプサン方面へ行くＫＴＸやセマウルであふれた為その他方面行きがノンサンに追い出されここが始発駅になっています。

ノンサン駅にて、現代ロテム製

車両は狭いと評判の悪いフランス製TGVではなく現代ロテム製で車内も広々、先日シュワルツネガー加州知事に韓国が紹介したのがTGVではなくこの車両だと評価も高かっただろうなと思います。列車はテジョン（太田）手前までは京釜線に平行して作られた新線を快調にとばします。そこから先は終点モッポまで在来線をそれなりの速度で走りますが、在来線といっても幹線の湖南線ですから駅構内は一昔前の東海道線のような風情で見ていて飽きません。

本日泊まる駅に近い狙いのホテルはグーグルアースで場所と電話番号は調べておいたのですがネットで予約できず、列車内から借りたばかりの携帯で通話を試みてもつながりません。テープで流される言葉を意訳するにどうやら番号を確認しろと言っているなと推測している内にKTXはモッポに到着してしまいました。しようがないので駅観光案内所で一番駅に近い別の宿（モーテル）を紹介して貰い、これが駅すぐ横だったので荷物を置き一言居士師と二人で駅はずれにある跨線橋へ急ぎました。ここもグーグルで見つけておいた場所です。しかし高さ２ｍの金網柵がたてられていて、私は靴を脱いで目の粗いところを探し金網をよじ登り何とか撮りましたが背の低い一言居士師は金網の無いところからの撮影です。まさか外国まで脚立担いで出かけるなど、覗きと間違えられる？まあそんなものですが、出来ず困ったことです。釣り人が使う折りたたみ椅子が使えるかどうか日本へ帰ったら調べてみることにしましょう。

モッポ駅から折り返して出発する現代ロテム製ソウル行きKTX

 跨線橋の端は金網が有りませんでしたので駅に到着してくる列車をぱちり。

韓国の客車列車は、基本的には始発から終点まで機関車は換えませんからこの電機が牽引した列車は電化された線、このモッポの場合湖南線を通って多分ソウルから、を来たに違い有りません。邪魔な金網さえなければ入れ替えや発着が結構あり楽しめる場所なのですがモッポ着がが１７時過ぎではすぐ暗くなってきました。このKTXの丁度１時間後に設定されたKTXはフランスのTGVですがその列車が着く１８時過ぎは可成り暗いので明日プサン（釜山）でねらうことにして初日のスケジュールは終わりました。

９／１０　９時１５分発のプジョン（釜田）行きで終点まで乗車します。この列車はムグンファ（無窮花）号と呼ばれる全車座席指定の急行列車で朝鮮半島南西端のモッポから一旦昨日来た湖南線をクワンジュウソンジョン（光州松汀）まで戻りそこから東のブジョンへ向け慶全線/鎮海線/京釜線をロングランします。新幹線に相当するKTXや特急のセマウルには自由席が存在するのに急行に相当するムグンファには有りません。昔はムグンファより格下の客車列車がありましたが今はありません。そして特急やKTXが走る幹線以外の亜幹線列車は（多分）すべてムグンファなのですから、どうなっているのでしょう？満席になることなどあり得ないということでしょうか？韓国にも旧正月や日本の秋分の頃にチュソク（秋夕）という民族大移動の時期があるのにです。それに、これは予感して居たことですが、このロングラン列車は長距離を走るのに客車はたったの３両＋電源車でPCバンと称するゲーム・カラオケ・売店車が連結されていません。発車前にこのことに気づき慌てて待合室売店に走り食料と飲み物を買い込みました。牽引機はＫＴＸ開業で余剰となったセマウル牽引機ですから片運転台です。グーグルで見たモッポ機関区には転車台が写っていました。前世紀の遺物ではなくどうも現役ではないかと思われてきました。

プクチョン（北川）で対向のプジョン発スンチョン（順天）行きムグンファが発車して行く

対向のムグンファはどう見ても普通のディーゼルカーでそれでも座席指定の急行です。書きおくれましたがプジョン駅とはプサン市内にある駅です。ブサンを出た京釜線からY字型に右に分かれた初めての駅で、KTXが現れる前まではソウル発のヘウンデ（海雲臺）行きのセマウルが唯一停まるブサン市内の駅で、鎮海線直通列車はブサン発着でした。それがKTX登場で輻輳するブサン駅からは在来線の列車は追い出され鎮海線直通列車とソウル発のセマウルはトンテグから京釜線を離れ慶州を経由して東部南海線でプジョンを終点にされました。それに従来からの中央線東部南海線経由でブサンに入っていた列車もプジョンが終点となり、要するにKTX以外の列車は殆どプサン終点ではなくプジョン終点となったわけです。プサン中心街からは地下鉄が直通していますが、ドラスチックな変更をしたものです。閑話休題、売店車も無い車内売り子も来ない長距離急行列車は淡々と走りプジョンへ近づきます。途中チンジュ（普州）には明らかに昔機関庫だったと思える赤煉瓦造りの建物が有ったりしたのですが停車時間が短く、ドアは手動開閉ではないので駅に置いて行かれる恐れで下車もならず、酔っぱらいの二人は只窓から空しく眺めるだけで列車は淡々と進みます。

それでも単線区間ですから、対向列車より先に到着したときは車掌に「写真撮るからドア閉めるの一寸待って」と頼みホームに降りて写します。これはマサン（馬山）に到着するソウル発のムグンファ号です。時刻表を見るとマサンは近くにある軍港チンヘ（鎮海）への分岐点でここまで京釜線から直通列車が沢山あります。現在ソウルから特急セマウルが７本も入っている重要線でここから先は目下複線電化工事たけなわです。早番KTXが運転されることになるのでしょう。

マサンから約４０分走り大河を渡るとサムナンジン（三浪津）で京釜線に入ります。ここから川の左岸を釜山に向かって走りますが、景色が素晴らしい。何が素晴らしいかというと写真を撮るのに邪魔な立て看板や建物立木がほとんど無く対岸から望遠で狙って良し、勿論線路のある左岸も良しと、これは永年の感で素晴らしい写真が撮れそうです。次に来る機会が有ればここは撮影地だなと話すうち列車はプサン駅へ京釜線が右へ分岐すると終着駅プジョンです。時に１６時５１分。

明日はこの駅から旅を続行ですが今夜のホテルはネットで予約した釜山の繁華街です。プジョン駅前から地下鉄で直行すべきところを途中寄り道、カヤ駅（漢字あるが表せず）で降りて最後の撮影のため京釜線の跨線橋へ急ぎます。この場所もモッポと同様グーグルで見当を付けた場所ですが例によって金網それもしっかりしたものが設置されていてよじ上れません。私のカメラはアイレベルファインダーしか付いてないのでやむなく焦点距離などを適当にセットしたカメラを金網上にさし上げ列車がきたらメクラ連写で対処しました。

ファインダーを実際に目で覗いていないのでずれてしまいました。ソウル行きのKTX、フランスTGVです。現代ロテム製は乗車定員が少ないので京釜線のKTXには殆ど充当されていません。

 同じ列車を追い写し、この先で右側から来るプジョンからの線路と合流します。

幹線だけに列車は頻繁に来ますがすぐ日が暮れて来てこの場所から離れ、地下鉄の駅へ戻るのが面倒でタクシーでホテルへ向かいました。全部の荷物を抱えた乞食の引っ越しスタイルですからあちこち移動するのが大変です。韓国は、日本の感覚では、タクシー料金が安いので助かります。１／３から１／４でしょうか、物価は一言居士師の見立てでは日本の１／２弱だそうですが運賃などは明らかにこれより低く抑えられています。我々はそのおこぼれに預かり、今回の旅行で買った外国人向け５日間通用の国鉄全区間全列車のパスは（国鉄線乗り入れの電車は不含）約７７００円です。新幹線に相当するＫＴＸにはソウル／モッポ間しか乗らず残りの区間は一部セマウル他は急行のムグンファで、概算では現地で一枚一枚切符を買いつないでもイコールか一寸安い程度ですが１５００Ｋｍの旅がこれなら確かに安いです。

９／１１　この日はプジョンから東部南海線・中央線・嶺東線でトゲ（道渓）まで行きます。プジョンから９時１５分発の直通ムグンファがありますが、この１５分前に発車するソウル行きセマウルがありますので分岐点のヨンチョン（永川）まで先行しそこでその列車の駅進入を撮ることにしました。

車両はＫＴＸ登場で幹線特急から追われ廃車が進んでいる、何というのでしょうかプッシュプル？、前後に半分客室の動力車（電気式ディーゼル）が付いた８両固定編成の豪華列車です。広々とした車内、前後間隔の広い左右２列づつの転換クロスシート、狭苦しいＴＧＶやそれより広いが調度品の劣るムグンファより快適です。今でこそこの線は東部南海線と名乗っていますが２００２年の時刻表ではソウル市内のチョンニャンニ（清涼里）からプサンまで中央線と称していました。沿線には自動車工場のあるウルサン（蔚山）、世界遺産観光地のキョンジュ（慶州）、保養地のヘウンデ（海雲臺）があって前二地には京釜線トンデグ（東大邸）から分岐し、ヘウンデはプサンに隣接しているのでプジョンを経由してソウルと直結するセマウルが設定されていました。ウルサンとヘウンデ間は全くのローカル、長距離は夜行を入れて一日二本がチョンニャンニとプサンを結ぶだけでした。

これがソウル／プサンのＫＴＸ開業と共に大変身。ソウルからトンデグまで在来（京釜）線、そこからキョンジュ・ウルサンを通ってプジョンまで行くセマウルが日に６本運行が始まりました。が、プジョンからウルサンまではいまだにローカル線そのもの、豪華車両のセマウルものろのろ走ります。博識な一言居士師によると釜山行きのＫＴＸを通すためトンデグから新線をキョンジュウルサン経由でプサンまで建設中だそうです。製鉄所のあるポハン（浦項）はキョンジュの近郊だし、現在のセマウルではウルサンまでソウルから７時間かかるから納得です。但し現在ＫＴＸはトンデグ／プサン間は在来線を走って１時間しか掛かっていませんからソウル／プサン間の時間短縮にはなりそうも有りません。韓国版我田引鉄ではなくこれでソウルから俄然便利になり観光とビジネス客が増えますので営業上の決定と考えるべきでしょう。

ここで蘊蓄を。韓国鉄道は都市近郊の地下鉄（含国鉄路線乗り入れ区間）を除き、通し乗車券を買い乗り継いで目的地に行くという習慣がありません。多分売ってないのでは？ではどうするか？列車毎にその下車駅（＝乗り換え駅）までの切符を買い一旦改札を出て、新たに次の切符を買うのです。我々は一括払い済みのPASSが有るので発券の都度お金を払ったわけではありませんが、プジョンからヨンチョンまでのセマウルの切符を発券して貰い、ヨンチョンで一旦出場しすぐ次の下車駅トゲまでの切符を発券して貰い入場しました。

ヨンチョンは電柱も電線も何もない広々とした構内を持つ駅です。こういう雄大なというよりちまちましてない風景は始めて見ます。

我々の乗る、ここから分岐する中央線と更にヨンジュ（榮州）で分岐する嶺東線終点のカンヌン（江陵）行き列車が到着します。この写真はホーム陸橋からです。遮るものが何も無いというのは良いものですね。

ホーム側です。こちらも見事に何もありません。このあとドアが閉まっては大変ですから階段を急いで降りこの列車に乗るとすぐ発車です。この列車はここから右へ分かれヨンジュ（榮州）まで中央線を行きそこから更に右へ分かれる嶺東線で本日の下車駅トゲへ向かいます。発車後すぐ左へ、１５分前にソウル行きセマウルが走り去っていったトンデグへ向かう大邸線が平らな畑の中を見事な弧を描いて離れて行きます。写真は有りませんが電柱などの障害物の全くない場所です。編成全部足下まで写せる列車写真派なら随喜の涙を流して感動する場所であることは間違いありません。此までにも気が付いていましたが、日本ならこんな場所があれば必ずカクイ綿（古い！）や・・・テレビなどの看板が立ち並ぶのに何もありません。車窓から見ていて目障りな物が無くうらやましい限りです。

嶺東線は、例会で先輩から見せて貰った昭和１４年版地図では日本海沿いのムッコ（墨湖）からトゲまでは予定線と有るだけで他にはなにもありません。これはトゲに炭坑が当時から有ったためで、第二次大戦中この予定線とそれを延長して海抜４１５ｍのナハンジョン（羅漢亭）から２段スイッチバックと勾配線で海抜４７０ｍのシンポリ（深浦里）まで延長しそこから７８０ｍのトンニまではインクラインで結んで山中で産出する石炭もムッコ港から搬出できるようにされました。朝鮮動乱後嶺東線沿線の石炭と石灰石搬出の為ヨンジュからサミットのトンニ（桶里）まで開通し、最後にシンポリからトンニまでの難所はオメガカーブで結んで全通、その間に終点はカンヌン（江陵）まで延伸、という歴史があります。その後中央線のチェチョン（堤川）とトンニ近くを結ぶ難関太白山脈を横断する太白線が開通しこの山脈一帯で産出される石炭と石灰石は嶺東線と太白線を通って輸送されるようになり現在に至ります。従って旅客列車に倍する貨物列車が運転されており、その現場を見てやろうというのが今回の旅行の主目的です。

ヨンジュから入った嶺東線は電化されていますがプジョンから通しのDLがそのまま牽引します。これも今回気が付いたのですが客車列車の牽引機は始発から終点まで代わりません。経路の中に非電化区間があれば同じDLで全線を走るのです。だから機関車を付け替えなくて良いようにしかるべき分岐駅（付近）には短絡線が有り常に前進だけで終点まで行けるようにもなっています。しかし、例えばソウル方面から来た湖南線と京釜線はテジョン（太田）で分かれますが、この分岐はテジョン駅の手前にあり、京釜線はテジョン駅ですが湖南線はソデジョン（西太田）で全く別の駅です。ソウル方面と往来するときは良いのですがモッポ方面とプサン方面との連絡はタクシーかバスで移動せねばならず恐ろしく不便です。ヨンジュの場合は釜山方面から来た旅客列車はヨンジュを発車した後中央線と嶺東線に分かれますが実はこの分かれた二線を結ぶ短絡線があって三角線を構成しており嶺東線から来た、ヨンジュ駅に寄る必要のない貨物列車はこの短絡線を通って中央線のチョンニャンニ（ソウル）に向かってもスイッチバックせず直行出来るようになっています。日本にも昔小山に水戸線から東北本線上野方面に短絡する貨物専用線がありましたね。小山は大駅ですからここを通る（小山は通過となる）定期の旅客列車は無かったのではないでしょうか。直通列車ならあなた任せで乗っていれば良いのですが乗り換えの時は駅名をしっかり確認しないとテジョンとソデジョンのように短時間では移動できず混乱してしまいます。因みに時刻表を調べてみたら中央線のチョンニャンニ方面と嶺東線をヨンジュ経由で直行する列車はありませんから乗り換える客は必ずヨンジュで乗り換えることになります。親切なように見えますが各列車本数が多くないからやはり不便です。需要が少ないのにそんなことまで考えていられるかというところでしょう。

ヨンジュから列車は少し平野らしいところを走るとカーブと勾配の続く路線となります。ときどき重連電機の牽引する貨物列車と交換しながら川に沿って上り続け駅名も恐ろしい炭坑と機関区のあるチョラム（鉄岩）を過ぎるとやや開け、やがて左から来る太白線と三角線で接続しややあって嶺東線のサミットであるトンニに停車します。トンニと次のシンポリ間は戦後のトンネル掘削技術が発達した時代に電化前提で建設されたので長大オメガカーブトンネルを初めとしてトンネルを多用しているので引きが良くなく出発前にグーグルアースで下調べをしていましたが写真を撮るのは難しそうです。天気も悪く車中からのロケハンも旨く行かぬままスイッチバックの下端ナハンジョン駅に着いてしまいました。駅と行っても客扱いはせず列車は停車するやいなや発車しトゲ駅に到着しました。