蒸気機関車200年史

慶応義塾鉄道研究会の中興の祖の一人である「齋藤晃 前鉄研三田会長」がとんでもない本を著した。全462ページ、ハードカバーでないことも最近の洋書に見られる傾向だが、とにかく大変なボリュームである。齋藤氏はすでに「蒸気機関車の興亡」「蒸気機関車の挑戦」という大作も著しているが、これらの著作がNTT出版といういわゆる鉄道趣味誌の版元から発行されたものでないことも意味があると思う。言ってみれば「鉄道趣味」の世界に閉じこもり、あるいは「C62命」などといった近視眼的SLフアンの趣味の対象とは一線を劃した内容になっている。見方を変えれば読者は鉄道マニアだけでなく、広く世間の人たちに読んでもらいたい書物といえる。
3冊目のこの本は齋藤氏自身が人生の卒業論文というだけあってその内容は多岐に渡っている。全16章に分けられ、黎明期時代から技術の進展にあわせてメカ的な発展が克明に、あたかも彼自身がその歴史の場面に居合わせたかのように、生き生きと描かれている。とくに第10・11章で「日本の蒸気機関車」を語るとき、これまで国鉄が中心に開発され、あまり語られることのなかった蒸気機関車発達史の裏側の事情に大胆に触れていて興味が尽きることない。
齋藤氏にとっては2冊目の「蒸気機関車の挑戦」から7年余の空白がある。この間、彼は鉄研三田会活動のほか、自宅の3階に製作中だった13mmゲージの大レイアウトの最後の仕上げにかかっていたし、工作台の上にはいつもスクラッチビルドの日本型蒸機の作り掛けがあった。それらと併行して3冊目になる本の制作にかかっていた。特に、印刷の2〜3倍のスケールで描かれた細密なカット画(著書のどこにも作者名の記載がない)の制作に多くの時間を割いていた。また、日本国内で集まらない資料収集には海外の鉄道博物館に足を運んでいるし、イベント運転が主体とはいえ、世界中の著名な蒸気機関車には対面しているはずだ。それらの大変な労力と努力、そして膨大な手間暇によってこの本は出来上がった。多くの人たちに広く読んでいただきたいと思う。


2007/04
著者斎藤晃
発売元NTT出版
価格4200円

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